Highly Sensitive Personの気質特性の理解と気質による問題点への対処法

Temperamental Characteristics of Highly Sensitive Person and coping method for them.  

 

                                  苑田純子

 

要旨

Highly Sensitive Person(HSP)と呼ばれる非常に敏感な人々の高敏感性は、生物に生存戦略として備わる気質特性と言われる。過敏さが生きづらさを生むが、脳の敏感性感覚処理や精神的境界性の薄さ、幼少期のトラウマなどが要因とされており、脳への働きかけや境界設定、トラウマ対策などで生きづらさの緩和が可能となる。生体に利をもたらす遺伝子として受け継がれてきたことが示唆されており、「細かいことが気になる」おかげで、「異変を素早く察知でき」、「他人の心身の状態に影響されやすい」ことで、「他者理解」を深めてきたこと、さらには、「感受性の高さ」が「芸術面での多彩な才能」を開花させ、「食べ物や環境などに対する過敏さ」が、「生物にとって安全な環境の指針」となることが示唆されている。現状では認知度の低いHSP気質の特性と対処法を明らかにすることで、HSPの生きづらさを緩和し、生存戦略としての機能をさらに活用できる可能性があることが示唆された。

 

キーワード:Highly Sensitive Person 生物の生存戦略 敏感性感覚処理  

精神的境界性の薄さ 幼少期のトラウマ

 

はじめに:Highly Sensitive Person (HSP)の概要

 

 Jungは高敏感性が遺伝要因以外に幼少期のトラウマ的体験などの環境要因でも形成されることを示し(Jung, 1915)、人間の基本的な特徴を示す型を「内向型」と「外向型」に定義した。(Jung, 1921)。しかし、1990年代に入り、Aron (2004) が高敏感性は、感受性が強く敏感な傾向が強いとされる内向型と必ずしも一致するわけではないことを明らかにし(Aron, 2004)、「Highly Sensitive Person(以下HSP)」という高敏感タイプの気質概念を提唱した(Aron, 1996)。そして、HSP30%が外向型であること(Aron & Aron, 1997)、敏感な人がすべてJungの提唱した内向型に該当するわけではないことを指摘した。

 高敏感タイプに関しては、通常の現実世界だけでなく、それを越えた世界までをも敏感に感じ取り、超越体験までしがちな「尋常ではないほど敏感な人々(Anomalously Sensitive Person(以下ASP))(Ritchey, 2003)」や、敏感なあまり他者の心身の状態まで自分の体感として感知する「共感能力者(Empath(以下、エンパス))(Orloff, 2009)」という概念も提唱されている。日本の論文情報検索サイトCiNiiで検索したところ、舟橋(2011, 2013)がHSPの研究論文を2本発表している以外は、ASP0件、エンパスが外国人研究者の論文の被引用文献に1件あっただけであった(20141123日検索)。以上の点をふまえ、本研究では、日本でも研究が始まっているHSPを中心に調べを進めた。

 HSPの持つ高敏感性は生物の約20%に生存戦略として備わる(Kagan, 1994)もので、刺激への高敏感性と、高敏感性を持つがゆえの脆弱性から、日常生活に支障をきたしたり、様々な病的症状を呈して誤診されたりするという問題点がある(Aron, 2010a)。日本ではまだ希少なHSP診療を行う北海道立緑ヶ丘病院の長沼医師によれば、「ノルアドレナリン過剰で、不安障害、パニック発作、統合失調症様症状、うつ、不眠などの病的症状が出やすい(長沼, 2011)」という。その他の気質特性として、共感力や正義感、倫理観の強さ、美や芸術への感受性の高さなども挙げられるが(Aron, 2010a)、本研究では特に、HSPの気質要因を明らかにしながら、日常生活にも支障をきたすほどの病的症状の緩和を図る方法を探っていく。

 

HSP気質の要因

 

脳の敏感性感覚処理

 

  HSPの過敏さは、敏感性感覚処理という脳の特性による(Aron & Aron, 1997)。刺激を受けた時、神経が迎える遮断点である超限界抑制に、より早く達するため、音や光、痛みなどの様々な刺激に圧倒されやすいという(Aron, 2004)。その結果、ささいな変化や他者の感情に気付きやすい。刺激過多に対して過剰に反応したり、刺激を避けようとしたりすることから、ADHD(注意欠陥/多動性障害)や不安障害に誤診されるケースもあるというが(Aron, 2010a)、これはあくまでも気質であって病気ではない(Aron, 2010a ; 長沼, 2011)。

  高敏感性は、人間以外の生物種にも全体の約20%見られ(Kagan, 1994)、行動抑制システムが関与すると考えられている(Aron & Aron, 1997)。これは脳の中隔海馬が関与するシステムで、脅威にたいして注意を喚起し、危険を避けるものである。

  こうしたHSPの脳の高敏感性は、環境の試練に対応する形で起こった生物の生存戦略と考えられる。吉田(2013)は、人体のメカニズムにおいても「ゆらぎ」が根底にあることを指摘している。ゆらぎとは平均からのズレを表す概念で、不均一さや乱れを示す。吉田(2013) によれば、人は心のゆらぎに連動し、無意識のうちに環境に合った適切な性質になるように脳機能を柔軟に変えているという。

 生物学者のBray2011)も、「細胞には生き延びるために絶対必要な環境に対する感受性があり、生物は化学構造を変化させることで応答してきていて、RNADNA、タンパク質の配列や構造だけでなくシナプスの組成構造も絶えず変化させてきた。」と説いている。

 以上のことから、HSPの過敏さの一因となる敏感性感覚処理という脳の特性は、生物が環境に対応する中で獲得してきた生存戦略であり、危険を早く察知して避けることに役立っていることが示唆される。しかしながら、この特性は同時に、痛みへの感受性や過度のストレスや悪環境における苦痛への感受性を高めることにも繋がると考えられる。

 

幼少期のトラウマ的体験

 

  HSPの過敏さの原因には、幼少期の、安心感を得難い養育環境も挙げられる。多くのHSPは虐待や過保護などから生き抜くため周囲の情報を敏感に察知しようと、その高敏感性に磨きをかけてきた(Aron & Aron, 1997)。その結果、緊張続きでホルモン分泌が乱れ、様々な病気を引き起こしやすい(長沼, 2011)。乳幼児期に慢性的なストレス状態にさらされると、ノルアドレナリン系の過活性とセロトニン系の活性低下を引き起こし、うつ病や不眠、不安障害、パニック発作などを引き起こすことがあることや(長沼, 2011)、情緒不安定な家庭で育った子供は、年齢に関わりなくストレスホルモンが多く精神疾患にかかりやすいこと(Medina, 2009)が報告されている。たとえ病気にならなくとも、愛着障害によって、親密さの回避や、誰かと一緒にいなければという強迫観念、見捨てられ不安といった精神的不安定さがつきまといやすい(長沼, 2011)。

  トラウマ体験を持つ多くのHSPが、精神的な疾患だけでなく、身体的な病気も引き起こしやすい仕組みを、室伏(2005)は、コルチゾールなどを含む、ストレスホルモンのグルココルチコイドが、強いストレスや長引くストレスで分泌され続けた結果、他の機能が犠牲となり、身体的な病気につながると説明する。

  また、精神的ストレスや葛藤を身体症状へと変換する防衛機制に身体化があるが(成田・若林, 1997)、高橋 (1994) が唱える身体化患者の特徴である「情動の過多」、「幼児期より感じやすく」、「容易に泣き」、「叱られるのを極度に恐れる」、「家族構造に過保護、絡み合い、硬直性、葛藤解決の迂回といった特徴がある」などは、いずれもHSPの特徴と合致する(Aron & Aron, 1997 ; Aron, 2004 ; 2006 ; 2008 ; 2010a )。身体化の一因に幼少期の安心できない生育環境があげられるのだが、それは養育者に適応して生き延びるため抑圧したものが、大人になって様々な身体的症状として噴き出すからである(Aron, 2010a )

  Sarno (1999) は、抑圧された感情が疾患を引き起こす仕組みを「抑圧された感情に反応した自律神経系が、ある組織への血流量を減少させる。すると組織に供給される酸素量は減少、これが痛みやしびれ感、麻痺、筋力低下、その他の機能障害を引き起こす。」と説明している。病状は、抑圧された感情が意識に浮上してくることを防ぐ防衛機能だとし、こうした仕組みを理解しただけで治癒した患者も多いとする。

安定した生育環境で育ったHSPには、心身に病的な症状がさほどみられないことから、HSPの過敏さや心身の不調には、安心できない養育環境によるトラウマ的体験が大きく関わっていると考えられている(Aron, 2008 ; 2010a )。

 

精神的境界性の薄さ

 

  精神的境界性の薄さもHSPの過敏さの原因である。精神的境界性とは、様々な刺激の出入りや、対人関係における距離などに関わる「心的境界」のことである(児玉, 2013)。

それには「脳の前頭皮質が関わる可能性がある(Hartman, 2001)」という報告もあるが、幼少期に境界を侵害されたことも一因となっている。過保護、過干渉という養育環境で、個人領域が侵略されると、脆弱な境界しか持てず他者との不健全な融合が起きるという(Fisher, 1979)

  精神的境界性が薄い人は情緒的に不安定で問題行動を起こす場合がある。境界への親の侵入を防ぐために拒食や過食、薬物の摂取など反抗的な企てを試みるケースもあるという (Fisher, 1979)

  また、「自他の身体の境界意識が少ない上、刺激に過敏で第六感に冴えるため、サイキック的、シャーマン的な面を持ち(Hartman,2001)」、「共感力が高すぎるため、他者の身体的問題の影響まで受けてしまいやすい(Jawer, 2005)」という。直観にすぐれ、トラブルや災害を予見できる利点がある(Aron, 2011)点については後述するが、ここで、他者の身体的問題の影響を受けてしまう原因についてもう少し深く追求する。

 

他者の身体症状や感情まで自分の体感として感じてしまう身体感覚の敏感さ

 

  人類は集団で協調することで生き延びようとしたため、互いの意図や動機を理解することが必要となり、それが対人関係の回路がけた違いに過敏な、HSPのような高敏感タイプが存在する理由だと言われている(Medina, 2009 ; Wise, 2010 )。

  他者の情動を理解して、脅威を避けたり絆を作ったりするという生存戦略に関わるのは、1996年に発見されたミラーニューロンである(Rizzolarti, 2009)。ミラーニューロンの司令塔は、内臓運動の司令塔と同じ場所にあるため、ミラーメカニズムが働くと自分の内臓反応まで引き起こし、その結果、人の体験をまるで自分の体感として感じるという(Ramachandran, 2013)。

  脳の右前島が大きいほど、自分の内部の生理的な状況を正確に感知できることが示唆されているが(Craig, 2005)、生まれつき右前島が大きい人だけでなく、過去にネガティブな経験を多くしたことでこの高敏感性が身についた人もいるという(Craig, 2004)。HSPが刺激に敏感なだけではなく、身体感覚においても高敏感性を持つ(Aron, 2004)のは、幼少期のトラウマ体験によって獲得されたものと考えられる。

情動の大部分は身体感覚から起こり、無意識のうちに、考えや意思決定に重要な役割を果たしていることが示唆されている(Blakeslee, 2009)のだが、HSPも身体感覚を敏感に感じ取り、それから湧き上がる情動をもとに、より安全で有益な行動を選択していると考えられる。これも生存戦略の一つと言えよう。

  ただ、他者が苦しい状況にある場合、それを体感してしまうことになるので、置かれた環境次第では原因不明の不調に苦しむことになるのが問題とされている(Orloff, 2009)。そこで、HSPの病的症状の緩和を図る方法を探る。

 

 HSP気質の諸症状への対応

 

  過敏さや過敏さによる脆弱性による生きづらさを緩和する方法を以下に述べる。

  まず、脳に過敏さの一因があるのであれば、脳へ適切な働きかけをするとよい。脳には学習能力があり、既存の回路を強化したり弱体化したりすることができる。杉(2008)は、「刺激を受けてもそれに反応せず、神経細胞が情報伝達をしないでいると、伝達に使われていた部分は退化していく。こうした脳の特性を利用して、ストレスを大脳皮質から自律神経に伝える神経連絡路が作られないようにしたり、既にできてしまった連絡路を遮断して、刺激を脳に伝えないようにしたりするというのが一つの方法である。」と説く。その具体的な仕組みを、池谷ら (2012) は、「脳にはよく使う回路の処理効率を上げ、逆に使わなくなった回路の処理効率を下げる働きがある。これは神経の配線同士の接触点であるシナプスの伝達効率が変わるためだと考えられている。また、シナプスの学習能力により、不要になったシナプスは削り取られていく。こうしたシナプスの学習プロセスが、脳の高度な回路形成の基盤となっている。」と説明する。

  その具体的な方法として、杉(2008)は、瞑想や座禅、強い意志などを挙げ、受けた刺激にとらわれないような練習を積む必要があると説く。つまり、ストレスを受けても、それを脳に伝えないような精神的鍛練によって、脳の過敏な反応を緩和すればよいのである。瞑想には、副交感神経を活性化させ、免疫系を強化したり、心理的機能を改善したりする働きがある(Hanson,2011)Aron2010)は、「他者よりストレスに関連するコルチゾールの分泌が多いHSPには、瞑想はストレス関連症状を軽減するのに有効であり、継続することでリラクゼーション効果が自動的なものになっていくため、外界の刺激に翻弄されにくくなっていくことが期待できる。」という。

  次に、幼少期に端を発するトラウマ治療も含め心理的治療を行うことで、病的症状の改善や精神的安定が得られる可能性がある。具体的にはSE(ソマティック・イクスペリエンス)療法、EMDR(眼球運動による脱感作と再処理法)、ヒプノセラピーなどが挙げられる(長沼, 2011)。SE療法は、イメージやボディワークを使うセラピーで、神経系の中で蓄積されたままになっているトラウマエネルギーを、解放していくものである(Levine, 2010)EMDRは、眼球運動で脳を刺激し、苦痛な記憶を脳の中で再処理して、トラウマではなくそうとするものである(Shapiro, 2004)。ヒプノセラピーは、潜在意識に働きかける催眠療法である(Krasner, 1995)

  また、薄い境界を補強するものとして、Aron2008)は、自分を守ってくれる境界をイメージで作り、その存在を感じることができるまで練習することを勧めている。具体的には、白い光に体が包まれているイメージ(Zeff, 2007)、胸に手を当てて、全身が愛で包まれるイメージ(Orloff , 2009)、神の光で保護してくれる球体を頭上にイメージし、その光の柱が頭から足まで身体の中心を貫いて守る様子を視覚化すること(Shumsky, 2006)などにより、境界を作ることができるという。イメージではあるものの、その力はイメージトレーニングの効果で認知されている。

  最後に、他者の情動や痛みまで体感してしまうことを防ぐ方法として、HSPである心理カウンセラー石原(2006)は「自分中心主義」を提唱する。HSPは精神的境界性が薄く、他者への共感性が高いことは先に述べたが、「他者への配慮や集団の輪を保つために他者中心になってしまうと、互いの感情の同調作用が起こって入り混じってしまう(石原,2006)。」という。医療ジャーナリストのMctaggart (2004) は、最新の量子物理学を含む科学データには、自身と世界の明確な区別や、個人を孤立した分割可能なものと考える世界観ではなく、すべてが相互に作用して結びついた連続体だと捉えるものが増えてきているという。そして、科学的には実証されているもののまだ説明のつかない一部の肉体的同調、たとえば、かなり近接して暮らしている女性たちの間で月経周期がそろうことがゼロ・ポイント・フィールドによって説明できる可能性があるという。ゼロ・ポイント・フィールドとは、モノとモノの間の空間における微小な振動の海であり、生物はこの無尽蔵のエネルギーの海との間で常に情報交換をし続けている量子エネルギーの塊であるという説が出てきている(Mctaggart, 2004)と報告する。

  滋賀県立大の教授、奥健夫博士も、阪大産業科学研究所時代から「人間の意識生命エネルギー」は、「一種の光に近い」「微細波動」だと唱えている(, 2005)。

人がエネルギーの塊で、波動によって他者とも相互に影響し合うという前提に立てば、同調作用によって他人の影響を受けることも可能と思われる。

  石原 (2006) は、自分の心身に不快な影響を与える他者との同調を防ぐには、他人の言動を気にしながら他者にとらわれて生きるのをやめ、他人との間に適切な境界を保ちつつ自分の本当の気持ちを大事にしていくという自分中心主義の生き方が必要だと唱える。

  高敏感性を持つHSP気質が、生物の約20%に受け継がれてきたことが、危険を察知して避けるという生存戦略として機能していることは先に述べた。だが一方で、HSP気質には心身の脆弱性や他者の身体的問題の影響を受けてしまいがちな、生活の質を低める面も存在した。ここではその緩和方法を示した。

吉田 (2013) は、集団にバリエーションがある方が生き残るのに有利であり、淘汰されずに受け継がれてきた遺伝子には、たとえどんなに不都合に思えるものであっても、その存在理由があるのだと唱える。正常な遺伝子が壊れてしまって、生存に不利な遺伝子が残ることはあるが、その場合はその遺伝子を持つ人の割合が3%以下であり、それ以上の人に受け継がれる場合は、例えそれが病気であってもなんらかの形で生存に役立つ場合が大半だという。

  吉田の説に従えば、約20%存在するHSPの気質には、たとえ生活の質を低める面が見られたとしても、生存に有利な理由があるということになる。では、先に述べた「危険を早めに察知して対応するという生存戦略」以外に、HSP気質はどのような形で生存に役立っているのであろうか。

 

 HSP気質の生存戦略としての作用

 

 まず、HSPにはトラブルや災害を予見できる利点があることから、敏感なHSPが受け入れられる食べ物や環境を整えることが、よりよい環境を作るための指針になり得るといえる(Aron, Aron, & Jagiellowicz, 2011)。また、美的感受性の強さにより、優れた芸術や音楽が生まれるという面もある。おおざっぱなくくり方にはなるが、こういった点もまたよりよい環境を作ることにつながっていると考えられる。

次に、刺激に過敏なHSPはあまり社交的ではなく、安定した家庭環境で育って刺激に対する適切な処理を学べた社交的なHSPであっても、一人で落ち着く時間を必要とするように、HSPには群れない傾向がある(Aron, 2010a)。これは、協調性の欠如といったマイナス評価につながる一方で(Aron, 2010b)、群れないことで集団に影響されない層を確保しているともいえる。

   Berns (2005) は、人が集団に同調してしまう時の脳の働きを、fMRI(機能的磁気共鳴画像法)で明らかにした。実験は被験者がサクラに影響されて誤答するかどうかを調べたものであったが、一人で判断して答えた場合の誤答率が13.8%であったのに対し、集団で自分以外の全員が間違った答えを選んだ場合、誤答を選ぶ確率は41%にも上った。さらに、誤答した被験者の脳内では、意志決定に関わる部分ではなく視空間認知に関わる部分が活性化したことが判明した。これは、誤答を選んだ原因が、他人のプレッシャーに負けたことでも仲間外れになるのを恐れたことでもなく、実際に誤答が正しいように見えてしまったことを示している。つまり集団が白だと答えれば、実際には他の色であっても白にも見えてしまう傾向が強いということになる。

したがって、群れないでいることは、たとえ集団が間違った選択をした場合でも、それに影響されないでいられるという利点にも繋がり、生存戦略の一つであると言えよう。

  さらに、HSPは幼少期のトラウマ的環境が原因で愛着障害を持ち、対人関係に問題を抱えるケースが多いのだが、逆転的発想で長所に目を向けるなら、次のように受け止めることもできる。それは、愛着が不完全で安全基地をもたない場合、縛られるものがないため常識を超えた目で見たり感じたり発想したりできる面があり、独創性に繋がりやすいということである(岡田, 2011)。Aronの研究では、HSP30%は外向型、残りは内向型である(Aron & Aron, 1997)。『内向型人間の時代』の著者であるCain2013)は、創造力の発揮には、極度の集中を可能にする孤独な時間が必要だと指摘する。邪魔が入ると生産性が下がりミスが増えるという実験データや、集団が大きいほど評価懸念や、社会的手抜き、生産妨害といった理由でよいアイデアを生み出す率が下がるという実験データなどがその根拠である。多くの内向型は、こうしたことを本能的に知っているから群れないのではないかとCainは指摘している。

最後に、現実世界を超えた世界まで敏感に感じ取ることができ、またシャーマン的な面を持つ非常に敏感な人々は、社会の中で預言者、聖職者、医師といった役割をはたしてきたものと考えられている (Aron, 2008)HSPの正義感、倫理観の強さは、自身の予知力を悪用せず社会に還元することに役立っていると考えることもできよう。

  ここで、HSPの超越体験がどのような仕組みで起きるのかを考察する。敏感な人はトラウマ体験などの困難な現状から逃避するため、現実から意識を切り離し、防衛機能として解離を起こすことがある。これは通常の意識とは異なる変性意識である(Richey, 2003)。変性意識になりやすい状況の一つは、次にどうするかという考えが全く通用せず現実志向体系の機能を放棄せざるを得ない時とされており、(斎藤, 1981)、トラウマ体験はまさにこれにあたるといえよう。

  この変性意識には治癒効果があり、シャーマンはそれによって医術的な行為を行っていると考えられている(Katz, 2012 ; 大橋, 1998 ; 塩月, 2012)。幼少期における過干渉や虐待からの逃避手段として、被暗示性の高さを身につけたものと考えられるが、それは共感力に優れ感知できる知覚力も高い人ほど、対人関係の衝突などにより心や身体に受けるダメージが人より大きいため、この能力で痛みの閾値を上げたり、一時的な知覚麻痺を起したりして対処しなければならないからだと考えられている(Wickramasekera, 1988)。つまり、意識をコントロールするわけである。こうした被暗示性の高い人の90%以上が超常体験を報告している(Wickramasekera, 1988)。このように、HSPの幼少期のトラウマ的体験が超常体験や治癒力に繋がっているものと考えられる。

  以上のことから、HSP気質には、危険をすばやく察知する以外に、よりよい環境作りに貢献したり、集団の影響を受けずに独創性を発揮したり、預言者、聖職者、医師という相談役を担ったりするという、社会的な役割を果たしている面があると考えられる。

 

おわりに

 

生物全体の約20%を占める高敏感タイプ(HSP)は遺伝要因と環境要因の両因から形成され、その気質は生物の生存戦略として機能していた。敏感性感覚処理という脳の特性から、刺激に対して過敏になりやすく、幼少期の不安定な養育環境を原因とするトラウマ的体験から、ストレス性の心身の病を訴えやすい上、精神的境界の薄さから、他者の問題の影響を受けやすい、という生きづらさを抱え、病的症状を呈するケースも少なくなかったが、それぞれに瞑想やトラウマ治療、境界設定や自分軸といった対応策が考えられた。

HSP気質には、危険をすばやく察知するという生存戦略以外に、よくない環境に気づき集団の意向に影響されることなく独創性を発揮することができるという面もあった。また、社会の中で宗教的、医療的役割も果たしてきたと考えられる。

まだ認知度の低いHSP気質の仕組みと対処法を知ることで、生きづらさを緩和し生存戦略としての機能をさらに活用できる可能性があることが示唆されたといえる。

 

 

謝辞

 

紀要論文投稿へのご推薦を頂いた佐藤裕之先生、ならびに査読等でご指導頂いた諸先生方に心から感謝申し上げます。

 

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高橋徹 (1994) ヒポコンドリー(心気)(精神医学レビューNo.11) ライフサイエンス

Wickramasekera, I. (1988) Clinical Behavioral Medicine  Plenum  Press

Wise, J. (2010) 奇跡の生還を科学するー恐怖に負けない脳とこころー ニキリンコ訳 青土社     

吉田たかよし(2013)世界は「ゆらぎ」でできているー宇宙、素粒子、人体の本質―光文

       

Zeff, T. (2007)繊細で生きにくいあなたへ 36の幸せヒント 岩木貴子訳 講談社

 

                  

付録

 

HSPの判定基準、HSP尺度(Aron, E

HSP尺度のチェック項目

以下は1997年に発表された27項目からなるHSP尺度である。(Aron & Aron, 1997;訳, 久保言史, Aron, E. 公式サイトhttp://homepage3.nifty.com/hspjapanese-k/より。 管理者Aron, E. , 2014129日検索)。

1 感覚に強い刺激をうけると、そのことによって容易に圧倒されてしまう。

2 自分の周りの環境の微妙なことに気づきやすい。

3 他人の気分に影響される。

4 痛みに非常に敏感である。

5 忙しい日々が続くと、ベッドや暗い部屋、あるいは1人になって刺激をやわらげる場所に閉じこもりたくなる。

6 特にカフェインには敏感に影響される。

7 まぶしい光や、強い臭い、肌触りの悪い布、近づいてくるサイレンの音といったものに容易に圧倒されてしまう。

8 豊かで複雑な内面世界をもっている。

9 騒音によって不快な気持にさせられる。

10 芸術や音楽にとても深く感動する。

11 時々神経が擦りきれるほど疲れ、一人になりたくなる。

12 何かをする時には、良心的に、きめ細やかに、細心の注意を払って行う。

13 すぐ驚く。

14 短時間に多くのことをかかえると、あわててしまう。

15 なにかの環境において誰かが不快に感じている時、もっと心地よくなるために何が必要なのか気づくほうだ。(明かりを調節する、席を変えるといったような)

16 人々が一度にわたしに多くのことをさせようとすると、気持ちに余裕がなくなり苛立ってしまう。

17 ミスをしたり忘れ物をしたりしないよう、人一倍努力している。

18 あえて暴力的な映画やテレビを見ないようにしている。

19 わたしの周りで多くのことが起こっていると、神経が高ぶって不愉快な気持ちになる。

20 空腹になると、集中力や気分が乱れるなど、強い反応をおこす。

21 生活に変化がおこると、不安に陥る。

22 香りや味、音楽や芸術における微妙でデリケートな違いに気づき、それを悦びに感じる。

23 同時に自分の中でたくさんのことが進行すると気分が悪くなる。

24 生活において、動揺するようなこと、圧倒されるような状況を避けることを最優先にするようにしている。

25 大きな音や雑然とした状況など強い刺激に悩まされる。

26 課題(仕事)をやる間、競争しなければならなかったり、観察されたりすると、とても緊張して不安になり、普段のようにできなくなってしまう。

27 子供のころ、両親や教師はわたしのことを繊細あるいは内気だと思っていたようだ。 

 

HSP尺度の注意点と限界点

 

14項目当てはまればHSPと判定されるが、ある個人の人生を、それを根拠にして正確に判断できるような心理テストというものも、正確な判定基準というものも存在しないとAron, E.は但し書きを加えている(Aron, 20082010a)。

 

さらに、尺度の限界点については、「被験者に自己判断で回答させる形式の判定方式では主観が交じってしまうため、今後は脳波測定なども組み合わせた、より客観性の高い研究が望まれる(Aron, 2011)」と唱える。